なお、マイクロブルワリーやクラフトブルワリーとは、一般的には大手ではない独立資本で運営されている小規模ビール醸造所のことをいい、アメリカではクラフトブルワリーの規模の定義もあります。そのため、私もマイクロブルワリーやクラフトブルワリーなどの言葉を使うときは独立資本の小さなブルワリーという意味で使ってます。
そんなマイクロブルワリーブームの中、それまで安価なljus lager(淡色のラガービール)を中心に大量生産していたSpendrups、Carlsberg、Åbroなどスウェーデンの大手ブルワリーも、クラフトビールを謳った少し高め(といってもマイクロブルワリーの製品よりは安め)の絶妙な価格帯の「マイクロブルワリー風」製品を出すようになります。これらのビールパッケージには多くの場合大手ブルワリーの名前がはっきりと書いておらず、一目見ただけではマイクロブルワリーの製品との区別がつきにくいです。
日本でもスプリングバレー(キリン)とか東京クラフト(サントリー)とか隅田川ブルーイング(アサヒ)とかココロクラフト(サッポロ)とか大手がクラフトっぽい名前を使って小規模感やローカル感を演出したビールを出してるらしいですが、それと似たようないわゆる「クラフトウォッシング(craftwashing)」をスウェーデンの大手ビール会社もやっているというわけです。
以下にそのようなマイクロブルワリーと間違いやすい大手ブランドの例をまとめてみました。
Spendrups
- Gotlands bryggeri(ブルドッグのラベルの製品が有名)
- Brutal brewing
- Pistonhead
- Omaka
Carlsberg
- Nya Carnegiebryggeriet
- Backyard Brew
Åbro
- Bron IPA/APA/Lager
大手が造っているからといって何の問題があるのか、美味しければいいではないかという方もいると思います。もちろん、味が好きとか価格が手頃とかの理由でこれらの製品を購入することは個人の選択やこだわりの範疇ですから全く問題ないと思います。私も先日投稿したPink Bootsのイベントなどを通じて大手傘下のブルワリーで働くブルワーとは現場レベルでは交流があるし同じ職業人としての仲間意識がもちろんあるので、たまにかれらの製品で気になるものがあれば買うこともあります。
疑問を持っているのは大手のマーケティング戦略に対してです。こんなふうに大手がマイクロブルワリーの人気や流行にあとから乗っかってきて豊富な資金・生産能力・幅広い物流網を駆使し価格的に優位な商品を出してくれば、独立資本・小規模でやってきたマイクロブルワリーにとって価格、生産量、宣伝費などのあらゆる面で太刀打ちが難しいことは容易に想像できるかと思います。実際にスウェーデンの国営酒屋でいちばん売れているIPAは、上に出てきたBrutal brewingのA ship full of IPAです。
たとえば、新しくオープンした飲食店のドラフトビールが全て上に書いたようなSpendrups傘下のブランドで占められているというケースは枚挙に暇がありません。大手ブルワリーは、ドラフトシステムの設置やビール用冷蔵庫の提供などの開業支援の見返りに自社の樽を一定量継続的に購入させるような契約を飲食店と結ぶため、飲食店はまずはその契約分の樽を売り切ることに集中せざるを得ず、そこに小規模な醸造所が参入するのはとても難しいのです。(この問題についてより詳しく知りたい方はbryggerilånやkrogavtalなどで検索してみてください。)
なので、もしスウェーデンのマイクロブルワリーのビールを飲んでみたい、はたまた応援したいという気持ちもあってビールを購入するなら、上記のリストにあるのは大手傘下のブランドでマイクロブルワリーではないから気をつけてねという意味での投稿でした!