ところでここからが本題なのですが、缶詰の解禁時期の8月後半が近づいてくると、こういうニュースリリースや記事も出てきます。以下は今年の例です。
Smarta ungdomar håller sig till surströmmingssäsongen(食品庁のニュースリリース、2016年8月15日)
Håll barnen från surströmmingen(Dagens industriの記事、2016年8月15日)
平たく言えば、子どもや若い女性はsurströmmingあまり食べないでね、という注意喚起の内容。これにはバルト海での天然魚の汚染問題という厄介な問題が絡んでいます。
天然魚のPCB・ダイオキシン問題
EUでは、域内で流通できる食品について、含まれるダイオキシンやPCBの上限値を定めており(欧州委員会規定1881/2006号)、上限値を超える濃度を含む食品は流通させることができないしくみになっています。ただ、スウェーデン、フィンランド、ラトヴィアに対しては、特定の魚についてこの規定の適用を受けないという例外措置がとられています。スウェーデンの場合、例外措置の対象は体長17cm以上のニシン、サケ、ブラウントラウト、イワナ、ヤツメウナギ(いずれもバルト海、ヴェーネルン湖、ヴェッテルン湖で漁獲された天然モノ) です。そのため、スウェーデン国内の食品市場では、これらの魚については、EU上限値を超えたダイオキシン・PCB濃度でも流通が可能ということになります。
これはつまり、スウェーデン国内市場での流通が許可される条件として、担当官庁であるスウェーデン食品庁(Livsmedelsverket)が、消費者、特に健康への影響を受けやすい若い女性や子どもたちに対して、十分にリスク回避のための情報発信を行う責任を負っているということです。また、この記事では詳しく触れませんが、そのほかにも、EU上限値を超える魚が国外に流通しないための監視義務と、取り組み内容に関するEUへの毎年の報告義務も負っています。
スウェーデン食品庁の情報提供
Dioxiner och PCB
Dioxin i Swedish food(英語)
また、特に汚染物質の影響を受けやすい子どもや妊娠・出産年齢の女性を対象に、摂取頻度のアドバイスを行っています。
All fisk är inte nyttig
上のページとリンク先の各ページでは、【妊娠・出産を希望する若い女性】【妊娠中もしくは授乳中の女性】【18歳以下の子ども】に対し、以下に挙げた脂肪を多く含む魚を食べるのは年に2-3回までにとどめるよう勧告しています。それ以外の人(成人男性、出産・授乳を終えた女性など)は週1回食べてよいとしています。
- バルト海、ボスニア湾、ヴェーネルン湖、ヴェッテルン湖で漁獲された天然のサケ(lax)およびブラウントラウト(öring)
- バルト海とボスニア湾で漁獲された天然のニシン(sill/strömming)→surströmmingに使われている多くのニシンがこれにあたります
- ヴェーネルン湖、ヴェッテルン湖で漁獲された天然のホワイトフィッシュ(sik、サケ科の淡水魚)
- ヴェッテルン湖で漁獲された天然のイワナ(röding)
- ウナギ(ål)
つまりは、流通はしてるから食べてもいいけど、食べる回数や量を考えてね!ということですね。自己責任ですね。日本でこのような制度が運用されていたら、限度の問題であることを理解せずに「汚染物質が含まれてる可能性が高いものを流通させるとは何事か!」と騒ぐ人が出てきそうな案件ですが…。
以上はあくまで該当海域の野生の天然魚についてのアドバイスなので、よくお店で売られているノルウェー産の養殖サケ(生・冷凍)のように大西洋で養殖されている魚は当てはまりません。
また、ニシンは基本的に天然魚ですが、産地がスウェーデン西海岸(カッテガット海峡、スカゲラク海峡)、北海、大西洋などバルト海以外であれば、上記の回数制限勧告は当てはまりません。我が家ではコスパ抜群のニシンのフィレをよく買うので、買う際に必ず産地を確認するようにしています。商品によるかもしれませんが、加工食品にも材料の産地が書かれていることが多いと思います。家にあったAbbaの酢漬けニシンには漁獲海域(Fångstområde)が表示されていました。
Livsmedelsverket varnar för surströmmingen(Sveriges radioの記事、2012年8月17日)
Måste varna för surströmming(SVTの記事、2012年8月17日、広告の切り抜き写真があります)
最近の動向など
気が向いたら「年2-3回まで」などの頻度の根拠について調べてみたいのですが、数字が苦手なので今回はこのへんでギブアップです。