医療サービスは分業制
スウェーデンの医療サービスは、県に相当する地方自治体ランスティング(lansting。2022年追記:現在はレギオーンregionという名称に変わっています)が提供しています。住んでいる県によって異なる可能性はありますが、ストックホルム県に住む私たちの場合は、妊娠出産に際して以下の4つの医療機関にお世話になりました。日本では里帰りとかではない限り基本的に1カ所の産院に通うことが多いと聞いていますが、こちらではどの医療機関がどこまでやるのかがはっきりしています。
- 最寄りのかかりつけ助産院(barnmorskemottagning、mödravårdscentral, MVCともいう):妊婦健診で通うところ。妊娠が分かってから最初に予約して行くのもここ。
- 最寄りの医療センター(vårdcentral):かかりつけ医のいるところ。染色体異常の確率を調べるKUBテストの血液検査とインフル予防接種はここでしました。
- 超音波検査(ultraljud)専門クリニック:1に超音波の設備がないので、超音波は全てここで。私の場合はKUBテスト・通常の超音波検査・予定日1w超過後の検査の3回行きました。
- 大病院の産科(förlossningsavdelningおよびBB):分娩と産後の入院は基本的に大病院で行います。
4については自宅から比較的近い病院を選んでいたのですが、冒頭に書いたように当日電話してみるとそこの分娩室にも県内の他の産科にも空きがなく、結局は隣のウプサラ県の病院で出産することになりました。どこの病院に回すかという調整は病院側がやってくれたので、自分で探す必要はありませんでした。夏の間の産科の人員不足はニュースやSNSで見聞きしてはいましたが、いざ遠くの病院に行くように言われたときは、陣痛の間隔も狭まってきており、かなり焦りました。また、異なる県の病院だったため電子カルテが共有されていない点も地味に不便でした。
また、医療スタッフの分業については、全体を通して助産師(barnmorska)の担当範囲が広く、特に必要性がなければ医師(läkare)の診察を受ける機会がないのが特徴だと感じました。1と3では助産師、2では看護師(sjuksköterska)が診察対応をしていたので、妊娠期間中は医師には一度もお目にかかりませんでした。4の分娩室では、助産師と准看護師(undersköterska)が2人でチームを組んで三交代制で分娩のサポートを行っており、麻酔など必要なときだけ専門の医師が来て対応する形でした。なお私の場合は、入院してから産むまで約20時間もかかってしまったからなのか、最後は産科医も加わって総勢3人で子どもを取り上げてくれました。あと最初から最後まで立ち会ったパートナーも点滴の管を動かしたり機器の電源コードを抜き差ししたり結構手伝わされたみたいです(笑)。お産が長引いてしまったことで、到着時に親身に対応してくれた助産師さんが、次の日再びシフトに入った時(=私の出産直後)に分娩室までお祝いに来てくれたのにはなんだかうるっとしました。産後に入院した4の病棟でも、基本は助産師・看護師・准看護師の3人のチームが三交代制でそれぞれの病室について対応し、必要に応じて小児科医と産科医が診察していました。
以上のように、医療機関・医療スタッフの両面で、それぞれの担当範囲・責任の所在がはっきりしていると感じました。
妊婦健診・出産に関わる費用は基本無料
住んでいる県によって細かい点が異なる可能性はありますが、ストックホルム県に住む私たちの場合は、妊娠出産に関わる医療費は無料でした。その代わり、通院や検査の回数は日本と比べると少ないようです。10~26週はだいたい月1回、27週以降は2週間に1回、38週以降は週1回の頻度での健診でした。健診は口頭での問診と血液検査と胎児心音確認という簡単な内容で、いつも30分もかからずに終わってました。超音波検査は通常は18-20週ごろの1回だけですが、染色体異常の確率を調べるKUBテストをオプションで希望すれば、計2回受けられます。あと、私の場合出産予定日を1週間過ぎたときにも超音波検査を受けました。
なお、見出しに「基本無料」と書いたのは、出産後の産科(BB)の入院時に、パートナーだけでなく母親の私に対しても1日100kr(1300円くらい)の入院費用が発生したためです。おそらく医療費ではなくて食費とかベッド代かな?
痛みを和らげる手段が選べる
無痛分娩と呼ぶのかどうかわかりませんが、スウェーデンの産科では、痛みを和らげる医学的・非医学的手段を複数提供しており、希望すれば医療費自己負担なく受けることができます。経腟分娩を行った私は、試せるものは積極的に試していくつもりで臨み(助産院で「痛みを和らげる手段の提案歓迎」という旨の希望を出したと記憶しています)、以下を順番にやってみました。効いたかどうかはあくまで個人的感想です。いずれも特に予約は必要なく、分娩室で助産師さんが私の様子を見て適宜提案してくれて、痛みに悶える私は提案されるがままに「ぜひぜひ!」と希望してやってもらった感じです。
- TENS:体に電極を貼り、電気の刺激で痛みを和らげようという機器。大掛かりなピップエレキバン?使い方が悪かったのか、あんまり効いてる気がしなかったです。
- varma kuddar:いわゆる湯たんぽ。体を温め痛みを和らげます。痛むお腹の上に置いていたら少し楽になりました。
- lustgas:笑気ガス。これにはお世話になりました。「さあ陣痛が来るぞ」というタイミングで大きく吸い込む→ゆっくり吐くを繰り返します。完全に痛くなくなるわけではないけど、痛みのピークを弱めることができた気がします。壁のつまみを回すとガスの量が若干調節できるしくみになっていました。
- epidural:硬膜外麻酔。腰にプスっとするやつ。日本の無痛分娩や帝王切開でも使われる麻酔だそうです。ある程度陣痛の痛みが我慢できなくなってきてから使ったのですが、効いてくると痛みはほぼ消え、効果覿面でした。途中で量も増やせたし。ただ、私の体質なのか量の問題なのか、一部ずっと微妙に効いてない部位があり、また最後の最後でいきむ時は普通に痛かったです…。そういうものなのかしら。でも途中ほとんど痛みがなかったおかげでかなり体力を温存できました。
- lokalbedövning:局所麻酔。効いたかどうかすらはっきりと覚えていませんが、硬膜外麻酔の針を刺す前などに局所麻酔をされたような気がします。
産後はすぐに子どもとの入院生活
産後は、分娩室で家族だけでhud mot hud(肌と肌の触れ合い、いわゆるカンガルーケア)でひとやすみしてから父母子同室の病室に移動し、早速子どもとの生活が始まりました。体ガタガタな中、昼夜問わず2時間おきに授乳するよう言われ(意外とスパルタ…)、最初の方はあまり母乳も出なくて大変でした。1日か2日で退院していく人も多い中、なんやかんやで長めに滞在することに。でもその間、経験豊富な医療チームが新生児の健康状態をかなりしっかり診て、母親側の痛みなどのトラブルにもすぐに対応してくれて、さらに授乳のコツなども教えてくれたので、初産の私はとても助かりました。
最後に
日本で出産した経験がないので正確な比較はできないのですが、日本の周産期医療事情を見聞きする限り、スウェーデンといろいろ違いがあるなと思いました。日本の場合は施設によってクオリティ・選べる出産方法・費用の差が大きく、方針なども医師もしくは助産師主導で進められることが多い一方で、スウェーデンではどこに行っても同水準の医療を受けられるようなシステムが整備されており、方針も医療上問題がない限りは妊婦自身の選択が重視されている印象を持ちました。私の場合、幸い経過が順調だったため、体重が15kg増えても特に何も言われず、妊娠中の一時帰国や旅行も「どうぞ行ってらっしゃい!」という感じでした。
どちらが良いのかは人によるかもしれませんが、ごちゃごちゃ厳しく管理されるのが苦手な自分には、少なくともスウェーデンのシステムは合っていたと思います。