最初に通った学校(営利企業運営)の授業に問題が多かったことは以前のブログ記事に記しました。その後、非営利の学校に移り、順調にコースを進めることができました。
学校を変えてからの授業はとてもしっかりしていました。授業内容はもちろん、運営面も。まず、コースの初めにちゃんと全体のスケジュールが出てきた。試験がいつあって、それまでに何をするのかも明確。担任の先生もクラスを掛け持ちしてなくて、ちゃんといる(いない時も代わりの先生がきっちり授業する)。人数がちょうど良い感じでクラス分けされている。先生が生徒全員の顔と名前を把握している。授業進行を乱す行動(私語など)はピシッと先生がやめさせる。
「そんなの当たり前やん」と言いたいことばかりなのですが、驚くべきことに、最初に通った学校ではそれすらきちんとしていませんでした。その学校の運営会社が最近上場したみたいですが、経営陣の方々は向き合うべき相手を間違ってるんじゃないかと…。
なぜこのような問題が起こるのか
それらの記事や現状を見た限りでの私の理解をまとめると、特に営利企業の運営する学校では、以下のような流れに陥りやすいのではないでしょうか。
- 入札で業者が決まるので、コスト削減ノウハウがある大手が契約を得やすくなっている。
- 利益を上げるため、生徒を多く受け入れて自治体からの授業料収入を確保する一方、生徒一人あたりにかかるコストを下げようとする。
- 教師の人件費が削られ、一人の教師が多くの学生の面倒を見なければならなくなる。
(例えば最初に通った学校では、教師の複数クラス掛け持ち、学習開始時期や進度の異なる生徒を同じ教室にまとめる、自習時間の増加などが発生していました。あと、SvDの記事中には、会ったことのない生徒の成績評価を行った例も挙がっていました。) - 教師への負担増。より良い労働環境を求めて優秀な教師から転職していく。
(最初の学校では、私のクラスの先生が転職していきました。) - 人員補充で資格のない教師が雇われたりする。もしくは補充すらない。
(最初の学校、先生辞めたけど補充ありませんでした。) - 残った教師の負担増。授業計画すらままならなくなり、さらに質が低下する。
- 生徒はどんどん来るので、受け入れ続ける。→→4つ前くらいに戻る
なお、これと関連しているのかどうかは不明ですが、ストックホルム市が、一昨年くらいからSFIを含むKomvuxの契約先を見直し、Komvuxについては22から13に、SFIについては9から6に契約学校数を減らすプロセスを進めているようです。この件は、契約更新されない企業からの反発もあってまだ決着しておらず、現在は暫定的な契約で場を繋いでいる状況です。
Upphandlingskaos skapar oro på SFI-utbildningar:SvDの新聞記事
Upphandling av komvuxskolor:ストックホルム市のウェブサイト
私はSFIには通っていないのでSFIの現状は分かりませんが、SFIのコース・SVA(SAS)のコース両方を提供している学校もあるため、上のような負のスパイラル的状況はSFI・SVAに少なからず共通して存在するのかもしれません。
(*1)
自治体の入札手続きはスウェーデンの公共調達法(Lag om offentlig upphandling, LOU)に基づいて行われています。同法第12条では、
・発注元の公的機関にとって経済的に最も有利な提示をした業者、もしくは
・最低価格を提示した業者
を選定することが定められています。ストックホルム市のKomvuxの業者選定はおそらく前者を選ぶ方針で行われていると思いますが、私のリサーチ不足で調達公告的なものがうまく見つけられないため、はっきりとした基準などはわかりません。
学校選びに役立つ情報を集める
で、そんないいシステムの中で学習を効果的に進めるためには、学ぶ環境選びも大事ということで、私が集めた情報などメモします。真新しい情報はそんなにないと思いますが、SFIに比べてKomvuxのSVAの情報はそれほど多くないようなので、なにかしらの面で参考になれば幸いです。なお、筆者がストックホルムに住んでいるため、これ以降は、主に、ストックホルム市とその周辺のコミューンにおける、通いのSVAコースを想定した内容になります。
情報を集める前に頭に入れたいこと
Komvux(Kommunal Vuxenutbildning)は、その名の通り、コミューンによる成人向けの教育学校です。外国出身者を含む20歳以上の住民を対象に、大学入学に必要な科目の補完教育や、高校レベルの職業教育を行う場で、スウェーデン語以外にも、英語などの他の語学の授業、数学や自然科学の授業、職業教育プログラムなどを提供しています。
Komvuxの運営形態には、ざっくり分けて2種類、少し細かくは以下の3種類あります。
- コミューンが運営する学校(公立/kommunal)
- コミューンの委託で非営利団体が運営する学校(民間・非営利/entreprenad, icke vinstdrivande)
=ABFやFolkuniversitetなどのKomvux - コミューンの委託で営利企業が運営する学校(民間・営利/entreprenad, vinstdrivande)
=「〇〇 AB(株式会社)」などの企業によるKomvux
Komvuxの民営化は、コミューンによって進んでいるところとそうでないところがあるようです。ストックホルム周辺ではかなり進んでいる(*2)のですが、地域によっては、kommunalのコースしかないところもあるのかもしれません。
(*2)
学校庁(Skolverket)のデータベースJämförelsetalにある2015年のデータによれば、スウェーデン全国では、Komvux生徒は約21.5万人おり、これらの生徒が取ったコースのうち45%が民間の学校のコースだったとのことです。うちストックホルム県(Stockholms län)では、Komvux生徒は5.1万人で、生徒の取ったコースのうち71%が民間の学校のコースとなっています。
情報収集方法1:口コミ(人づておよびウェブの掲示板など)
私の場合は、まずはSFIに通うつもりで窓口に行ったところ、テストを受けていきなりSVA grundに通うことを勧められたため、最初はKomvuxやSVAについてよく分からず、まずは知人つながりで経験談を聞く、ウェブの口コミをあたるなどして情報収集しました。通い始めてからも、クラスメイトと雑談中に他校の情報を聞きました。いろいろ見聞きしていると、やはりコミューン運営や非営利の学校の方が、全体として好意的な評価を得ていることがわかってきました。
とはいえ、口コミの場合、当然ながら人々は自分の経験の範囲で語っています。私のブログも主観的なものです。この件に限ったことではありませんが、一つの意見だけに縛られず、できるだけいろいろな見解に目を通し、きちんと根拠や背景を見て判断したいものです。
情報収集方法2:新聞記事
移民向け語学学校の話題は、新聞などのメディアでもよく取り上げられています。スウェーデン語の勉強にもなり一石二鳥。ただ、特にDebatt(識者による意見記事)を読む場合などには、発言者がどのような立場の人なのかにも注意を払う必要があります。
例えば、SvDの"Privata SFI-företag får bakläxa av Skolinspektionen"という記事では、営利企業の学校と非営利団体の学校ABFの両方のSFIに通った人の「後者の方が断然良かった」という見方が掲載されています。 SFIの話ではありますが、これも、口コミの一つとして参考になります。
情報収集方法3:自治体のウェブサイトのデータ
と書いてはみたものの、わかりやすい判断材料をウェブで提供している自治体って少ない。大きめの都市のウェブサイトでも、学校の所在地・連絡先などの一般的な情報のみしか載せていないところがほとんどです。もっと詳しく探せばあるのかもしれませんが、私が探した限りはあまり見つけられませんでした。
そんな中、ストックホルム市が、SFIの学校に関する生徒へのアンケート結果を載せており、SVAの学校を選ぶ際にも一部参考になるかもしれません。
Hitta och jämför utförare av svenska för invandrare (sfi)(ストックホルム市のウェブサイト)
リストの学校の名前をクリックすると、個別ページの右下にアンケート結果が出てきます。現時点ではアンケート結果が載っていない学校もけっこうあるので、もう少し充実すれば参考にできるかな?同じく個別ページにあるKvalitetsrapportも、成績の統計や詳しいアンケート結果などのデータが載っているので参考になるかも。
で、結局どこがいいのか
以上で集めた情報や、私の半年間足らずの少ない経験を総合すると、授業の質を重視するなら、営利企業が運営する学校よりも、コミューンや非営利団体の学校が開講するコースの方が、きちんとした授業を受けられる可能性が高いと思います。
実際に営利と非営利の学校にそれぞれ通ってみて、後者のほうが断然よいと感じたポイントはいくつかあります。まず、コースの生徒数と教師数の割合がちょうどよいなど、人員配置が適切です。また、担任の休暇などで代わりの教師から授業を受ける機会がどちらの学校でもありましたが、そのような場合の教師同士の授業情報共有も、非営利の学校の方がはるかにきちんとしていました。おそらく、教師の待遇が良いため、デキる先生が集まってくる傾向にあり、職場の雰囲気も良いのではないかと予想…。さらに、授業や成績評価がしっかりしているので、最終的に意欲のある生徒が残るようになっていると感じました(出席者リストに名前だけ書きにくるような人は、「楽な」ところを選ぶ)。
もちろん、上記はあくまで私が通ったたった2校の比較であり、私も全ての学校に通ったわけではないので、営利企業が開講するコースが全部ダメだとは言えないし、非営利の学校のコースが全て良いと保証できるわけでも決してありません。異なる感想を持つ方もいらっしゃるかもしれません。ただ、記事や口コミなども総合すると、少なくとも「そういう傾向がある」くらいは言えると思います。
いろいろ書きましたが、実際のところは「コミューンにもよるし、先生との相性にもよるし、当たり外れもあるし、通ってみなければわからない」点があるのも否めません。コミューンによってシステムや選択肢の多さは異なると思いますが、通い始めてからもコースや学校の変更は相談できます。せっかくとてもよい制度の中で学びの機会を得ているのだし、積極的に活用したいものです。
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