離乳食にコメのおかゆを作った、という話をこちらの栄養士や友人にすると、コメはヒ素の含有量が多いから気をつけるようアドバイスをもらいました。確かに、コメは小麦やオーツ麦など他の穀物に比べるとヒ素の含有量が高いことはよく知られています。ヒ素は自然界の土壌などに存在する物質で、より細かく分けると有機ヒ素と無機ヒ素というのがあり、健康に影響があるとして問題となるのは無機ヒ素の方です。EUでは、長期にわたる無機ヒ素の摂取が皮膚病変、がん、発達毒性、神経毒性、心血管の疾患、グルコース代謝異常、糖尿病などの発症リスクに関連しているとして、ALARA(as low as reasonably achievable=合理的に可能な限り摂取量を少なくする)という原則のもと、2016年1月からコメと一部のコメ加工品中の含有量に上限値が設けられています。特に乳幼児向け食品の原料となるコメの上限値は厳しめになっています(参考:Arsenic in food)。スウェーデン食品庁(Livsmedelsverket)も国内で流通するさまざまなコメやコメ由来製品について2015年に独自にヒ素含有量を調査し、ウェブページ"Arsenik i ris"で公開しています。この調査から、コメやコメ由来製品の摂取を子供は週4回・大人は週6回程度に抑えれば、健康リスクが高まることはないと結論付けています。また、riskakor(こっちで売っているぽんぽん菓子せんべいのようなスナック)やrisdryck(ライスドリンク)については、特に無機ヒ素の含有量が多いとして6歳未満の子供には食べさせないよう勧告しています。
スウェーデンで市販されている離乳食のおかゆ(gröt)にも、オーツ麦、スペルト小麦、コメなどを原料としているものがありますが、2017年8月に公開された消費者サイトTestfaktaの試験によると、もちろんEUの上限値内ではあるものの、コメを原料としたgrötのヒ素含有量がとりわけ高くなっています(参考:Gröt och välling för barn kan innehålla för mycket tungmetaller、結果一覧のPDF。PDFで示されているヒ素含有量は無機ヒ素と有機ヒ素を合わせたものであることに注意)。
日本の農林水産省のページ「食品中のヒ素に関するQ&A」では特に離乳食や乳幼児のコメの摂取については触れられていませんが、「コメに含まれる無機ヒ素は、玄米の外側についている糠(ぬか)の部分に多く含まれています」「白米をよく研いで食べることで、コメを通じて摂取するヒ素の量を減らせる可能性があります」とあるので、調理する前によく研げば多少は摂取量を少なくできるのかもしれませんが、実際にどのくらい減るかについては特に調べていないらしく言及がありません。調べることはできるのだから、こういう情報を載せるなら「可能性がある」とかいうふわっとした情報ではなく根拠となる調査をしたらいいのにと思います。
一方で、上述のスウェーデン食品庁のページや資料には「コメを茹でる前にすすいでも無機ヒ素の含有量は減らなかった」「コメを多めの水で茹でてその茹で汁を捨てることでヒ素濃度を半分以下に減らせる」旨が書いてあります(注:スウェーデンではコメをパスタみたいに茹でて食べる人もいる)。前者のすすぎについては「100gの米に1lの水道水を注ぎ10秒間スプーンでかき混ぜて水を捨てる」という程度で、日本のようにしっかりと研いでいるわけではありません。後者については、そもそも茹でてその茹で汁を捨てる調理法を私はやらないので実行できそうにありません。
日本人はお米やひじきなどからのヒ素の摂取量が多いだろうし、離乳食もおかゆ中心に進めるのが基本になっていて、おそらくほぼ毎日お米を食べている赤ちゃんも多いのではないかと思いますが、日本でそれが問題になっているという話はあまり耳にしたことがありません。日本の離乳食の本を電子書籍で買って参考にしているのですが、初期は主食のほとんどが白米のおかゆになっており、食材一覧のコメのところにも海藻のところにも無機ヒ素の話は出てきません。多分、主食としてあまりにも食生活に浸透しすぎて今更どうこうできないので、ある程度のリスクはしょうがないと考えられているのが現状なのでしょうか(もしくはリスクがあること自体がよく知られていない?)。
それにヒ素は土壌に存在するため多かれ少なかれさまざまな食品に含まれており、完全に避けることは不可能です。摂取量を減らせるならなるべく減らした方が良いのでしょうが、どの程度の量なら大丈夫なのかは私もよくわかりません。
EUの上限値やスウェーデン食品庁の調査結果は一つの目安にはなりますが、日本人の平均的な食生活での摂取量はもっと多そうな気がします。結局のところ、エビデンスに基づいた情報を考慮に入れた上で個人個人がどう判断するかになってしまうのかなと思います。お米を摂ることで得られる重要な栄養素もあるし、私自身はこのことを知ってからも特に食生活を変えたりはしていません。離乳食についても、お米に偏りすぎないよう主食のバリエーションを増やすように心がければ、個人的にはそこまで神経質になることはないと思っています。